研究課題/領域番号 |
01540370
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研究種目 |
一般研究(C)
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配分区分 | 補助金 |
研究分野 |
物理化学一般
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中原 勝 京都大学, 理学部, 助教授 (20025480)
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研究期間 (年度) |
1989
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研究課題ステータス |
完了 (1989年度)
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配分額 *注記 |
1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
1989年度: 1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
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キーワード | ラマンスペクトルの帯形解析 / イオンの回転運動 / 回転運動の相関時間 / 回転運動の濃度依存性 / 水の動的構造 / 溶媒同位体効果 / 流体力学的モデル / 電解質水溶液 |
研究概要 |
溶液におけるエネルギ-や物質の輸送過程の研究は化学反応のダイナミクスの理解のために欠かすことができない。しかし並進運動の場合と違って、イオンの回転運動の研究はまだほとんど進められていなかった。本研究では、水中での対称こまイオン(硝酸イオン)の全対称伸縮振動の偏光ラマンスペクトルの非等方的成分の帯形解析とNMRのスピン-格子緩和時間の測定とから回転緩和の時間相関関数を決定し、希薄溶液におけるイオンの回転運動のメカニズムを検討した。時間相関関数の時間積分より得られる回転緩和時間の濃度依存性が、並進運動に対する「濃度の平方根則」とは異なり、「濃度の一乗則」で表せることを発見した。対イオンが一価のアルカリ金属イオンであるかぎり、軽水中でも重水中でもイオンの回転運動に関する「濃度の一乗則」は希薄領域から約1モル(体積モル濃度)までの広い濃度範囲で成り立つことが分かった。我々が昨年発表した流体力学的理論〔J.Chem.Phys.,90巻、392(1989)〕はこの濃度依存性を定性的には説明するが、定量的には不十分なものであることが判明した。さらに、溶液の粘度がイオンの回転を支配する主要な因子となってはいるが、イオンの回転の相関時間の変化は溶媒の粘度の変化ほどには大きくないことも明らかになった。これは、我々がイオンの水中での並進運動のメカニズムとして提唱して来た、水の構造を利用した「空孔くぐり抜け機構」の重要性を回転運動の点からも立証することに成功したことを意味する。我々は重水を使った溶媒同位体効果の研究からこの事実を明らかにしてきたが、さらにこの結論を強固にするためには温度効果についての研究が今後必要である。このイオンの回転に関する知見は、イオンのダイナミクスに対するこれまでの理解を大きく前進させるものである。
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