研究概要 |
環状ポリスルフィドは天然物中にも見い出され、そのいくつかは、生物活性を示すなど重要な化合物として注目を集めている。これらの環状ポリスルフィドのうちいくつかはこれまで合成されているが、分子内にペンタチエピン環とトリチオール環を併せもつような特異な構造を有する環状ポリスルフィドの合成については申請者らによって開発されたアルコキシ基を持つものの一例が知られているだけである。本研究ではそのような特異な構造を持つ環状ポリスルフィドのより簡便で新規な合成法の開発を検討した。容易に入手できる1,4-ジアルキル-2,3,5,6-テトラブロモベンゼンに独特の反応性を示すことが知られている単体硫黄・液体アンモニアを反応させ通常の反応処理の後申請の液体クロマトグラフ装置(日本分光社製.880PU)を用いて生成物を分離確認したところ分子内にトリチオール環を二つ持つビスベンゾトリチオールとベンタチエピン環とトリチオール環を併せ持つトリチオロベンゾペンタチエピンを収率よく合成することができた。この反応はハロゲン化アルキルの環状ポリスルフィドへの直接変換の初めての例であると共にビスベンゾトリチオールの合成の初めての成功例でもある。X線結晶解析によりこれらの生成物の構造を解析したところビスベンゾトリチオールについては二つのトリチオール環が互いにトランスに配置していること、一方トリチオロベンゾペンタチエピンはその二つのポリスルフィド環が互いにシスに配置していると云うきわめて興味深い結果が得られた。またこれらの環状ポリスルフィド環は液体アンモニア中で相互に変換し得ることさらにナトリウムボロハイドライドにより容易に還元され通常のハロゲン化アルキルによりアルキル化されることなど新しい知見が得られた。これらの化合物はある種のキノコ類に対し成長促進作用を示すことが確認されたがその機構等については現在検討中である。
|