研究概要 |
特異な光化学反応性を示すことが期待されるα,α'ービスジアゾケトンの分解過程を一般的に理解するために、今年度は過去に報告例のない二種の新しいビスジアゾケトンを合成し、室温溶液中および極低温マトリックス中の反応性を詳細に検討した。七員環骨格に組み込まれたビスジアゾケトンである5,7ービスジアゾジベンゾシクロヘプタジェンー6ーオンは相当するケトンに対する,アルミナに吸着させたフッ化カリウム存在下トシルアジドによるジアゾ移動反応により合成できた。その溶液中の反応性は、従来知られているビスジアゾケトンの反応性とは全く異なり,Wolff転位後生成するジアゾケテン中間体の由来する生成物が得られた。また二個のジアゾ基が非等価な構造を持つ2,4ージスジアゾテトラヒドロナフタレンー1,3ージオンを同様の手法を用いて合成し、ジアゾ基の分解選択性を検討した。含水ベンゼン中で光照射すると二個のジアゾ基が分解した後Wolff転位を経て水とベンゼンが一分子ずつ反応した構造を持つ2ーイソダノン誘導体が25%程度の収率で得られた。生成物の構造から生成機構を推定した結果この化合物は、異なる環境にある2個のジアゾ基のうち縮環した芳香環に近接したジアゾ基が先に分解して生成したものと結論した。極低温マトリックス中では、前者のビスジアゾケトンからは溶液中の反応で想定した反応中間体がさらに光分解を受けて生成したシクロプロペノン誘導体が直接観測された。また後者のビスジアゾケトンについて非等価なジアゾ基の分解過程の直接観測を試みたが、生成するケテンの吸収との重複によりジアゾ基の分解選択性に対する明確な結論を出すことはできなかった。以上の様に、新しい構造を持つ二種類のビスジアゾケトンの反応性を検討することにより、光分解過程に及ぼす骨格の影響が明らかになり、非等価なジアゾ基の分解選択性に関しても興味深い知見を得ることができた。
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