研究概要 |
特異的な結合状態や反応性を示す電子欠損型前周期遷移金属スルフィド錯体の新奇合成とそのクラスタ-化をめざし、以下の成果をあげることができた。 (1)イオウ化試剤に使用する種々の組成をもつLi_2Sx(x=1,2,…)を液体アンモニア中で合成し、その中で(tmeda)_2Li_2S_6の構造決定に成功した。この化合物はリチウムスルフィドとして構造が明らかにされた初めての例で、またbicyclicなアルカリ金属スルフィドとしても初めての化合物である。 (2)修飾したシクロペンタジエニル配位子(Cp^*=C_5Me_5)を導入したCp^*ーTaCl_4とLi_2S_2との反応から、〔Cp^*TaS_3〕^<2->ユニットを持つ数種の新錯体を合成した。構造解析に成功したのは、〔Li_2(thf)_2(Cp^*TaS_3)〕_2と〔Li_3(tmeda)_2Cl(Cp^*TaS_3)〕_2(tmeda)で.前者は六角プリズム型Ta_2S_6Li_4骨格、また後者は2個のオ-ブンキュバン型TaS_3Li_3Cl骨格をもつ極めてめずらしいクラスタ-化合物である。さらに、〔Cp^*TaS_3〕^<2ー>は初めての有機金属トリス(スルフィド)化合物である。 (3)Cp^*TaCl_4とLi_2Sの反応からは上記〔Li_2(thf)_2(Cp^*TaS_3)〕の他に、Taが一部還元されたクラスタ-、Li_2(thf)_3Ta_3Cp^*_3S_6が得られ、その構造解析も行った。三角形Ta_3ユニットはTa(IV)_2ーTa(V)の混合原子価状態にあり、その電子状態も興味深い。 (4)〔Cp^*TaS_3〕^<2->のリチウム塩と後周期遷移金属ハライド、例えば〔(COD)RhCl〕_2(COD=シクロオクタジエン)との反応から、新しい異核クラスタ-、(Cp^*TaS_3)(Rh(COD))_2を合成単離し、その構造を決定した。スルフィドはTaーRh間に架橋し、d^0Taとd^8Rhとの間には配位結合の存在が認められた。
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