研究概要 |
茨城県最北部の阿武隈高地の小川学術参考保存に1989年5月に調査地を設定し,1989,1990年の2年間にわたって調査・研究を実施し,以下の結果が得られた。 調査地はコナラ,アカシデが林冠木が占め,中層木にアカシデ,低木層にブナ,イヌブナ,ヤマツツジ等が優占した。調査地の2年間の平均気温は10.4℃,暖かさの示数は77.0℃・月であった。相対積算光量子密度(測定波長域400〜700nm)は林冠木の葉が展開する前の4月初めには,低木層の上で70%,林床で65%であった。6月中旬にはそれぞれ7%,3%にまで低下した。野外での蒸散速度,気孔開度,木部水ポテンシャルの日変化の測定(ブナ,イヌブナ,ミヤマガマズミ,ヤマツツジ,バイカツツジ,ナツハゼ,アオダモ,ウラジロノキ,アズキナシ,コアジサイ,オトコヨウゾメ,ハクウンボクの12種)および実験室での光合成の測定(ブナ,イヌブナ,ヤマツツジ,ハクウンボクの5種)より以下のことが明らかになった。(1)土壌から葉への通導コンダクタンスは蒸散速度と正の関係をもった。(2)乾燥に対して,細胞壁弾性係数をより大きくして,葉の相対含水率の低下を防ぎ,乾燥から逃げる種(ブナ,イヌブナ,ナツハゼ等)と弾性係数は小さく、乾燥に耐える種(ヤマツツジ等)とがある。(3)気孔の開閉は水蒸気圧欠差に敏感に反応する。(4)飽和光成速度が小さいために,少々の気孔の閉じは光合成に影響しない。ブナとイヌブナ稚樹のフェノロジ-,光合成,樹形構造の調査・測定より以下のことが明らかになった。(1)両種の葉の展開,落葉様式は完全に同じ。年間を通じてブナの方が飽和光合成速度と光補償点が高い。(3)ブナはより優先的に上方生長し、イヌブナは樹冠をより平面的に広げ,光受容効率の良い樹形をつくる。以上の結果はブナの方がより陽樹的,イヌブナの方がより陰樹的特性を示唆した。
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