研究概要 |
本研究によって明らかになってきたことは,人家の中の住みつくクモ例えばイエユウレイグモやオオヒメグモは,幼生の発育時の光周期が長日條件であっても短日條件であっても発育に大きな相違を示さないが,人家の中には住みつかないクモ,例えばユウレイグモやヤミイロカニグモは,短日條件下での幼生発育が大巾な遅延を示す,ということである。すなわち,前者は光周期とくに短日條件に対する反応が鈍いが,後者は敏感である。人家の中に住みつくクモは人工照明や冬季の暖房の影響を強く受けるので、短日條件に対する反応が鈍くなって温度さえ適当であればいつでも幼生の発育が可能なような性貭を発達させた方が,繁殖にとって有利になるが,野外で生活しなければならないクモは,冬を告げる短日條件に敏感に反応して越冬に備えなければ,生き残れない。このことが,人家に住みつくクモとそうでないクモとの光周期に対する反応の違いを生じさせている主要な原因である,と考えられる。ところが,さらに他のクモに調査を広げてみたところ,人家に住みつくシモングモやチリグモが,短日條件に対してかなり強い反応を示すことが判明してきたのと同時に,人家に住みつかないキクズキコモリグモの幼生発育も,光周期の違いにはほとんど影響されないことも判明してきた。これらの事実は,人家に住みつくクモの光周期に対する反応にはその種に特有な違いがそれぞれ存在していることと,人家に住みつかないクモにおいても一年間での発生世代数などと結びついた光周期に対する反応の違いの存在することを,暗示している。野外でいつでも発生できるようにするには,光周期に対する反応が鈍い方が有利になるからである。したがって,これらの新事実の発見は,今後におけるこの方面の研究に対し,研究計画立案の際にまず考慮しなければならない重要な基礎知見になるものと考えられる。
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