1989年1月より1999年3月まで、成層湖である茨城県中沼において、温度成層の発達過程と微小生物プランクトンの分布を追跡調査した。温度成層は3月以降急速に発達し、5月はじめには表水層と深水層の分離が明瞭になる。これにともない、無酸素層は4月の12mから7月の7mへと上昇する。各水深からの湖水試料を蛍光顕微鏡で観察し、また水中懸濁有機物と栄養塩の分析をした結果、次の事が推定された。3月にはほぼ全層に分布していた植物プランクトンは成層の発達により、次第に表水層にその活動域を狭められる。これに加えて、水層の隔絶による栄養塩(特にリン酸)の供給制限、無酸素層の上昇、各水層間を移動する動物プランクトンの節食圧が植物プランクトンの生産量に関係する。表水層での植物プランクトン現存量が増加しないため、日射エネルギ-は深水層に透入し、非酸素発生型の光合成細菌が増殖可能となる。試水の吸光スペクトルの2次微分解析によって、深水層上部に紅色硫黄細菌、その直下に緑色硫黄細菌が層上に分布していることがあきらかになった。ここで用いた測定法は光合成生物が低密度で混在する場合の解析に極めて有効であると思われる。細菌プランクトンは表水層に多く、10^7cells/ml程度存在し、増殖速度も高いことがチミジンの取り込みにより確認された。湖水を1μmのフィルタ-で濾過し、微小原生動物を除去すると細菌数が増加することから、この捕食関係もプランクトン間の重要な関係のひとつと考えられた。成層湖におけるプランクトン群集構造の維持には、食物連鎖関係とそれを通じた栄養元素の回帰循環系が重要な役割を果していることが推測された。
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