研究概要 |
昆虫の血液中には,脂質を運ぶリポタンパク質リポホリンが存在する。リポホリンは,エネルギ-源であるジグリセリドや,昆虫を乾燥から護るのに不可欠なクチクラの炭化水素などの脂質を,その合成や貯蔵器官からそれらを必要とする器官に輸送している。ワモンゴキブリやトノサマバッタのリポホリンの研究からリポホリンは,中心対称的な3層の内部構造をもつ球形をしていることが解明されている。それは,表層に,リン脂質とアポタンパク質I(分子量25万),内部コアには炭化水素,その両者の中間にジグリセリドとアポタンパク質II(分子量8.5万)が局在しているというものである。リポホリンは積み荷である脂質を降ろす際アポタンパク質は壊されずに何度も脂質輸送に携わることができる。これは,哺乳類の血漿リポタンパク質のようにエンドサイト-シスによって丸ごと細胞にとりこまれ,脂質だけでなくアポタンパク質も分解されるのとは大変異なっている。従って,リポホリン内部の脂質が,どのような機構で膜を介して輸送されるのかということが,依然として解明されていない。本研究では,アポタンパク質の脂質輸送における役割を解明するために,アポタンパク質のIとIIの単離を試み,それに成功した。これからは,単離したアポタンパク質をリポソ-ムに組み込むことによって再構成リポホリンを作ることが可能になり,各アポタンパク質の役割を追求する第一段階をクリア-することができた。また,運ばれる脂質のひとつであるジグリセリドを,リポホリン分子を壊さずに,リパ-ゼによって消化することができ,積み荷を降ろす際の機構の解明に展望が,ひらけた。さらに,ジグリセリドをほとんど含まないリポホリンをコロラドハムシの血液中に見出し,それを精製し,その機能と構造を明らかにした。
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