研究概要 |
哺乳類の受精初期に,精子は卵子表層の透明帯中の糖蛋白質(精子レセプタ-)を認識し種特異的に結合すると考えられているが,その分子機構の詳細は不明である。本研究では,ブタ透明帯の精子レセプタ-の結合活性領域の決定とその構造解析をめざした。元成元年度には,透明帯糖蛋白質の糖鎖部分の構造解析を主に行なった。卵巣から得た透明帯は既に精子結合能を持っている。そこで,まずステンレスメッシュとパ-コ-ルを用い,卵巣由来の透明帯を大量に得る方法を工夫した。熱可溶化した透明帯糖蛋白質はゲル〓過HPLCでPZP1〜3に分けられ,そのうち主成分であるPZP3がレセプタ-活性を持つことがわかった。PZP3をヒドラジン分解し得たNーグリコシド糖鎖はDEAEーHPLCで中性と酸性の糖鎖群に分別された。NMRと種々のHPLCによる分析から中性の糖鎖は,2本鎖を主とする複合型であることを見出し,その大部分の構造を決定した。一方これら中性糖鎖群の非還元末端に,硫酸基が不均一に付いた種々の長さのオリゴラクトサミンが結合し多種の酸性糖鎖を形成していことも明らかにした。平成2年度は,これらの成果に基づき,レセプタ-部位を,結合の阻害活性をみる競合法で検索した。その結果,PZP3に含まれるαー,βー両蛋白質のうちαー蛋白質の中性糖鎖がレセプタ-活性を持つと判定できた。更に,PZP3のエンドーβーガラクトシダ-ゼ消化で得た糖ペプチド>プロナ-ゼ消化で得た糖ペプチド>ヒドラジン分解後のDEAEーHPLCで得た中性糖鎖の順で活性が弱くなることがわかり,活性発現には糖鎖だけでなく蛋白質部分も必要であることが明らかになった。以上の結果は,ブタの精子レセプタ-は初年度に構造決定したPZP3の中性糖鎖のいずれかが担うことを示しており,現在どの糖鎖かを決定する詰めの実験を行なっている。
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