研究概要 |
本研究の目的は、動物の胚発生において、発生段階および臓器特異的に発現する遺伝子の制御機構を明らかにしようとするものである。ここでは我々の研究室でクロ-ニングされた、ニワトリ胚前胃上皮細胞で、胚期(孵卵8ー18日)のみに発現するニワトリ胚型ペプシノゲン(以下ECPg)の発現の調節にECPg遺伝子のメチル化が関与している可能性を探った。 マウスやヒトでは個体発生に伴ってペプシノゲン遺伝子が発現する際に、発現器官(胃)におけるペプシノゲン遺伝子のメチル化の程度が低下することが報告されている。このことは、ペプシノゲンの発現がDNAのメチル化によって制御されている可能性を示唆する。そこで我々はECPgについても同様の検討を行った。 まずECPgの合成(前胃における)がもっとも盛んな、孵卵15日胚から各個体毎に前胃、砂嚢、小腸、筋肉を摘出した。これらの個体の筋肉からそれぞれDNAを抽出し、制限酵素Eco RI,Hind III などで切断後、ECPGgのcDNAをプロ-ブとしてサザンハイブリダイゼ-ション(SH)を行った。その結果ニワトリECPg遺伝子にはかなりの多型がみられた。そこで、Eco RI,Hind III切断で同じパタンを示す個体の前胃、砂嚢、小腸をあつめ、そこからDNAを抽出、メチル化を調べる方法をとった。メチル化は、メチル化を認識するHha I, Hpa II およびHpa IIのイソシゾマ-でメチル化を認しないMsp IでDNAを切断し、SHで調べた。その結果、いずれの制限酵素による切断でも前胃、砂嚢、小腸、筋肉でSHのパタンにちがいが検出されなかった。それゆえ、ECPgではメチル化の程度の低下は必ずしも器官および発生段階特異的な発現と関連していないものと考えられる。この点に関して、現在、ECPgの5'プロモ-タ領域に結合する核内因子の同定に進みつつある。
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