研究概要 |
従来,構造帯と構造帯の境界には必ず大きな構造線が存在すると考えられてきた。九州四万十帯を例に挙げると,白亜系からなる北帯と古第三系からなる南帯の間には“延岡構造線"が存在すると言われている。そこで,九州山地中央部の神門地域において地質調査を行い,同構造線の存否を検討することとした。 調査地域における,四万十累層群の各地層の一般的な走向は北東ー南西で,北西方向に傾斜しており,九州四万十帯の一般的な傾向と一致している。本地域の数箇所の“延岡構造線"を横切るル-トにおいて,従来神門層とされてきた緑色岩・赤色凝灰質頁岩を挟在するチャ-トラミナイトと,諸塚層群とされてきた片状砂岩との間では,両者が互層をなして漸移している。また延岡構造線に相当する断層,破砕帯は存在しなかった。さらに詳細にみると,調査地域では北西ー南東方向の軸をもつ褶曲構造が認められるが,この構造は“延岡構造線"をはさんで,諸塚層群,神門層のいずれにも認められ,両者の構造は全体として互いに調和的である。また,延岡構造線より南側に存在するとされている大薮衝上断層についても,やはり断層破砕構造は認められず,構造線の存在は疑わしい。さらに上記の褶曲構造は神門層とその下位にあたる日向層群にも認められる。以上の結果,少なくとも本地域では大構造線は存在せず,四万十累層群の各層は下位より上位まで構造的に調和していることが明らかとなった。 このように従来の定説を覆す結論が出されたが,詳細な地質調査の重要性を改めて示している。 なお,広域にわたって検討するために国土数値情報を用いた地形解析も行ったが,この程度の分解能では必ずしも明確な結論は出なかった。
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