南紀州のクロフジツボ類の分布、生態、成長の研究から、クロフジツボ、ミナミクロフジツボ、タイワンクロフジツボの個体群密度の違いが成長速度の違いに原因するという研究代表者自身の観察の検証のために実施した。つまり成熟に至までの時間(Reproductive cycle)の短いものほど個体群密度が大きいことが予想される。 硬組織中の成長線の形成様式を明らかにする実験・観察は千葉県天津小湊町の千葉大実験所で現生クロフジツボを用いて行った。クロフジツボの新規付着は、通常7月下旬から8月をピ-クにして9月上旬まず確認される。付着後、2ヵ月間の成長速度は著しく、7月下旬に殻底部の直径3mmの個体が3ヵ月後には直径16mmに達する。夏には海水温が高く、新規付着個体の成長は促進されるが、1齢の個体の成長は殆ど止まっている。海水温の低下につれ、11月頃には新規付着個体の成長速度も低下し、海水温が最低となる2月には、殆ど成長しない個体も見られた。海水温が再び上昇し始める春先には成長も促進される。このように成長は海水温と密接に関係する。 硬組織中の成長線の走査電顕による観察結果は、1)成長線の数は干出回数と一致する。2)成長線の間の成長輪の幅は海水に浸っている時間の長さを反映する。つまり潮間帯の垂直的位置の違いによって成長線の数、間隔が異なる。それによって化石フジツボの潮間帯での垂直分布を明らかにできる。 この事実を利用して南紀州のクロフジツボ類の潮間帯の同じ垂直的位置から同時に採集された上記3種の成長線を調べた。その結果、同じ期間内の成長線の数および幅は3種の間で明瞭な違いがなかった。つまり、成長速度の違いがそれらの集団サイズの違いと明らかな相関を示さなかった。別の原因を検討する必要がある。
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