研究概要 |
本研究において当初計画した,本邦キ-スラ-ガ-型鉱床の鉱石の特徴を表わすと考えられる元素の分析は,通商産業省・資源エネルギ-庁によって鉱石の完全分析が行なわれたため,計画を変更し,その分析に試料を提供した。従って,本研究は希産鉱物の同定・分析と硫黄同位体比の測定を主体とした。 三波川帯など塩基性岩に伴う鉱床の鉱石は鉱物組成が単純で,銅に富む鉱石に方鉛鉱,四面銅鉱,自然金が希産鉱物として認められる程度である。コバルトは通常黄鉄鉱中に含まれ,黄鉄鉱が磁硫鉄鉱に変わった鉱石で数種の独立鉱物を形成することは既に知られている。今回閃亜鉛鉱中にも0.2%程度のコバルトが含まれることがあることが判明した。なお,磁硫鉄鉱鉱石にはキ-スラ-ガ-鉱石が比較的テルルに富むことを反映して,ヘッス鉱(Ag_2Te)が含まれることがある。 柵原鉱山火の谷鉱床で閃亜鉛鉱,重晶石に富む鉱石にゲルマニウムを最大4.3%含むコル-ス鉱が見出された。ゲルマニウムを主成分とする鉱物は従来黒鉱々床では報告されているがキ-スラ-ガ-鉱床では知られていない。柵原鉱床の形成は大陸縁辺部での流紋岩の海底火山活動が関係していた可能性が強いことを示唆しているものと思われる。柵原鉱床が胚胎される舞鶴帯の形成史に対して重要な資料を提供するものと思われる。 キ-スラ-ガ-鉱床の硫化物の硫黄同位体比は大略+1〜+7%の範囲で,変動幅が小さい。しかし,別子鉱床で知られていた変動幅(+1〜+3.5%)に比較して,時に,天竜川沿いの鉱床や四万十帯の鉱床でプラス側にシフトしているように見える。海嶺の硫化物鉱床での変動の範囲内であるが,更に測定数を増やして統計的に意味を持つ資料にする必要がある。
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