研究概要 |
日本の古第三紀植物群の層序編年のために,宇部炭田,山口県野田地域,常磐炭田,石狩炭田ほかの野外調査および既存資料の再検討を行ない,以下のような成果を得た. 1.従来,前期漸新世とされた植物群は,大部分が始新世に属することが明らかになり,これにより,近年の浮遊性の微化石層序や凝炭岩の放射年代値とも調和する. 2.古第三紀を通じ,植物群の組成・構成種の最も顕著な転換期は始新世と漸新世の境界近くに認めることができる.しかし,これが北アメリカの古第三紀植物群変遷や太平洋の古環境変動で明らかにされている始新世末のいわゆるTerminal Eocene Eventに相当するものかどうかについては,さらに検討が必要である. 3.新しく認定した漸新世植物群は,その属構成や構成種からみて中新世,とくに台島型の植物群に類似する点が多い.すなわち,第三紀を植物群から二分した場合,漸新世植物群は新第三紀型と結論される. 4.山口県野田地域の芦屋層群(前期漸新世)相当層の植物群(野田植物群)を詳しく検討し,25属32種を認めることができた(投稿中).ハコヤナギ属などの一部を除き,本植物群は新第三紀植物群に多い温帯性属種より構成される.日本の現在の温帯林の原型は漸新世森林に求めることができる. 5.以上のほかに,本研究の目的である,古第三紀含化石層を中心とした炭田地質資料の収集にも努め,また,化石層序の基礎となる植物群構成種の系統進化学的検討(カバノキ科,ニレ科,スズカケノキ科など)を行い,成果を得ることができた.
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