研究概要 |
生体系における各種熱・物質の交換・輸送・制御などの機能は機械工学的立場からは極めて精巧で高性能システムであり,これを解明し応用できれば極めて意義深いものがある。とくに,熱・物質の交換機能の解明は緒についたばかりで,熱工学的アプロ-チはその進展に貢献できるものと期待される。本研究では,生体系内における各種の熱・物質の交換・輸送に関する機能のうち「毛細血管ー細胞組織」及び「毛細血管ー肺胞」に代表される迷網域の対向流型の熱・物質交換形態に注目し,そのメカニズムを熱工学的に解明すると共に工学的応用の指針を検討することを目的とする。具体的には,1.生体体膜を介した熱・物質交換機能に関する文献調査と基礎実験,2.毛細管内の血液流動特性に関する文献調査と基礎実験,3.温度と濃度の分布計算手法と熱的異常現象の診断法の確立,4.選択的能動輸送機構と濃縮化の解明,5.感温及び感物質のセンシング機能の解明,6.生体組織の熱的物性値とその温度依存性の解明,7.生体系熱・物質交換システムの工学的応用の検討,などの研究計画も立て遂行した。まず,生体系内の熱交換機能の調査では,迷網系をはじめ各種器官で父くみられる形態が対向流型であり,生体膜と酵素および化学ポテンシャルの交播作用による制御機能が重要な役割をはたすことがわかり,これらに基づくモデル化を試み,ル-プ型対向流路における熱・物質交換の数値シミュレ-ションを行った。生体内の温度および濃度の計則についてはホログラフィ-,誘起螢光,超音波などを利用した計測システムを考案して,その有用性を検証すると共に,異常部位の診断にも応用できるよう努めている。生体組織の物性値はinーvivo状態での測定が困難なことから,医学部との共同研究を試みている。感温あるいは感物質センシング機能の本質は末だ不明であるが,工学的応用の検討も含め,興未深い問題であり,更に研究を継続し,進展させてみたい。
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