研究概要 |
本研究では,高温装置の実環境下にある金属材料の熱ふく射性質を明らかにするために,つぎの一連の実験研究と理論研究を行った. 実験研究では,第1に,高温大気酸化過程にある耐熱鋼と超合金の可視〜赤外反射性質における過渡挙動を高速スペクトル法により調べ,実在表面のふく射性質がふく射の波長のオ-ダの規則性をもって推移することを明らかにした.第2に,高温のパラジウムの近赤外域での反射・放射スペクトル特性を調べ,表面における酸化・解離反応の結果として,1000Kの近傍でスペクトルには明瞭な温度ヒステリシスが現れることを見出した.第3に,実在表面における拡散反射性質を測定する装置として,回転楕円体面鏡式の垂直入射半球反射率測定装置を考案・試作した.この装置は,熱工学のふく射測定において重要な吸収率スペクトルを1回の走査で測定する. 第4に,この装置を基礎研究に応用する試みとして,金属の機械研摩面の可視・近赤外反射の波長・角度特性を系統的に調べ,鏡面反射性があらい表面においても顕著であることを示した. 理論研究では,実在表面の熱ふく射性質を強く特徴づける表面の微視的な幾何形状と表面被膜の特性を記述する理論の確立をはかった.第1には,あらい金属表面について,これを自己相似構造をもちながら配列される離散要素のフラクタル的な集合として表す3次元モデルを提案し,そこでの電磁波の干渉・回折挙動を調べた.第2に,このモデルに対して,金属表面上に形成される酸化被膜の結晶粒の一つずつを3次元非平行薄膜要素と見るモデルを結合し、高温酸化過程における反射性質の推移を記述する手法を提案した.これらの研究により,実験で見出された反射スペクトルの規則的かつ一般的な過渡現象を計算機上で記述することが可能になった.
|