ハイビジョンをはじめとするTV画像や写真等の画質評価で最も大きなウェイトをしめる直交心理要因は、鮮鋭感と粒状感である。これら2大要因に対応する劣化、ぼけ(blur)とランダムノイズに対して、人間の主観評価と一致する画質評価アルゴリズムを確立した。まず、ぼけによる劣化は画像をある種の低域通過形フィルタに通すことと等価であり、実験的に視覚のMTF(空間周波数特性)による重みだけでほぼ満足な評価結果が得られる。しかし、ランダムノイズに対しては視覚の線形性を示すMTFのみでは明らかにその評価は不十分で、画像に応じて変化する要素を考慮する必要がある。即ち、画像に依存した重みづけの決定が問題となるのである。本研究では、視覚系の網膜以降をブラックボックスとし、入力刺激(観測画像)に対する応答関数を任意の非線形関数として、着目している画素に微小変動(ランダムノイズ)が加えられた時の応答関数をテ-ラ-展開線形近似して、重みを決定している。この場合、視覚誤差は、物理的誤差に応答関数の微係数が乗じられたものとなるが、この項が、画像依存の原因となる項である。この項の決定に視覚系でよく知られたマッハ効果、ウェ-バ-・フェヒナ-の法則を導入し、合理的かつ数学的に、重みが決定されることを示す。これらの重みがつけられた視覚誤差から、単独劣化量を計算し、SN比に準じて単独画質が決定される。又、総合劣化量は、これら二大劣化心理要因の直交性からベクトル和として求め、総合画質の決定を行う。本方法による評価は、一対比較法による主観評価実験結果とほぼ一致しており、ぼけとランダムノイズの二大劣化要因に対して、視覚特性に合った評価であることが確かめられた。
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