研究概要 |
起振力と振動応答の関係を表す伝達関数から振動方程式の特性行列(剛性行列,質量行列,減衰行列)を同定する新しい方法を提案した。新たに提案した方法は,伝達関数の実験値と計算値の差の2来和を最小にするように特性行列を順次修正して行き,伝達関数の一致の状態を見て繰り返し計算を終了させる方法である。まず,提案した方法の精度を確認するために,片特梁および両端自由梁の振動実験を行ない伝達関数を計測して,特性行列の同定計算を行なった。その結果,構造の振動特性を十分に含む伝連関数を用いて同定計算を行なえば,伝達関数に含まれる実験誤差が多小大きくなっても提案した方法で比較的精度良く特性行列が同定できることが確められた。なお,構造の特性を十分に含まない伝達関数を用いて計算を行なった場合には,同定計算に用いた伝達関数の特徴は良く表わすが,真の特性を表わし得ない特性行列を同定する場合があるので注意が必要である。次に,実験的に同定した減衰行列を例にして,比例減衰の仮定が成り立つか否かについて調らべた。その結果,同定した減衰行列に関しては,比列減衰の仮定を適用することはできないことがわかった。しかし,計算される伝達関数におよぼす減衰行列の違いの影響はあまり大きくないので,比例減衰の仮定は実用上特に問題にならないことがわかった。さらに,実験的あるいは理論的に同定した部分構造の特性行列を合成して全体構造の特性を推定することを試みた。その結果,各部分構造の伝達関数は良く一致する特性行列が同定できていたにもかかわらず,それらを合成して求めた全体構造の伝達関数の計算値と実験結果には差が生じた。これは,特性行列の同定誤差の影響が,他の特性行列と合成したときに複雑に増幅されて現れるためと考えられる。したがって,ここで試みた方法を実用化するに当ってはさらに同定精度を向上させる必要のあることが明らかになった。
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