研究概要 |
鉄骨建築に用いられる鋼材の品質はJISに決められているが,降状応力度は最低の保証値しか示されていない。しかし,鉄骨骨組が大きな力をうけて塑性域に入る場合,その耐力や変形能力は鋼材の降伏点よりむしろ,降伏比に依存する。この研究の目的は,降伏比が鉄骨骨組の変形能力にどの様に影響するかを実験的に調べ,構造安全性からみて降伏比がどの程度の値まで許容できるかを明らかにすることである。本実験は柱部材試験体と門形フレ-ム試験体に地震時に対応する荷重を載荷することにより行った。柱部材の実験では,鋼材の降伏比(0.62,0.82),部材の断面(Hー150×150×6×6, Hー150×150×6×9),軸力比(0.1,0.3,0.6)の3つの実験変数を選び,計12体の実験を行った。門形フレ-ムの実験では,実験変数に,鋼材の降伏比(0.62,0.82)を選び,計2体の実験を行った。柱部材試験体の柱頭に一定軸力と繰返し水平力を載荷した結果,以下のことが分かった。1)幅厚比の大きい板要素よりなる柱部材では,局部座屈による影響が支配的で,降伏比の影響は少なくなる。すなわち,降伏比が小さくても,局部座屈により変形能力は小さくなり,降伏比の大きいものとの差が少なくなる。2)幅厚比の小さい板要素よりなる柱部材では,降伏比の小さい方が塑性変形能力がある。しかし,軸力比が大きくなるほど鋼材の降伏比の影響は少なくなる。門形フレ-ム試験体の柱頭に繰返し水平力を載荷した結果,骨組に作用する水平力が最大値に達するときの柱頭の累積水平方向変形量を骨組の変形能力と考えると,降伏比が0.82を用いた試験体では塑性率は30,降伏比が0.62を用いた試験体では41となった。降伏比が0.82の鋼材を用い,かつ,はり材端にスカラップがある場合でも,建築構造物の変形能力の点で問題はないことが明らかとなった。
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