研究概要 |
1ーメチルー4ーフェニルー1,2,3,6ーテトラヒドロピリジン(MPTP)がパ-キンソン病の症状を引起こすことが報告されて以来、MPTPに関する医化学的研究が活発に行われている。MPTPはモノアミン酵素B型により1ーメチルー4ーフェニルピリジニウムイオン(MPP^+)に酸化され、このMPP^+がミトコンドリア内膜の電子伝達系を阻害することが知られている。本研究ではMPP^+NAD^+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)類縁体とみなし得る点に着目し、種々のNAD^+・NADH類縁体の電子伝達反応の機構を明らかにすることによりMPP^+の作用機構について知見を得ることを目的とし、以下の新しい知見を得た。 (1)種々のNAD^+類縁体がビタミンB_<12>補酵素モデル化合物であるアルキルコバルト錯体によって還元され、MPP^+の二電子還元体に類似したアルキル化したNADH類縁体がえられること。(2)NAD^+類縁体の非酵素的還元が種々の脂肪酸あるいは有機金属化合物によって熱反応および光反応で起こること。(3)NADH類縁体は金属ポルフィリン錯体の存在下で非酵素的に酸素分子へ効率的な電子伝達を行い得ること。(4)不安定なNADH類縁体ラジカルカチオンのESRスピクトルを測定することに初めて成功したこと。(5)NADH類縁体から種々の基質への電子伝達反応の機構を明らかにしたこと。 以上の結果により生体内においてもNAD^+が通常とは異なる還元を受けることによりパ-キンソン病発症物質に変成し、正常な電子伝達系を阻害する可能性が示唆された。
|