研究概要 |
1.配位不飽和と考えられる5配位ルテニウム(II)錯体[RuH(P-P)_2]PF_6(P-Pは各種2座ホスフィン)を合成単離し、そのジクロロメタン溶液に水素ガスを導入して分子状水素を配位子とする一連のルテニウム錯体[Ru-H(η^2-H_2)(P-P)_2]PF_6(P-P=dppe,dppp,dppb,diop,dppf,binap)を得た。これら分子状水素錯体の溶液中での挙動を、特にヒドリド配位子(Ru-H)と分子状水素配位子(Ru-(H_2))の交換速度に注目しつつ、^1Hおよび^<31>PNMRにより詳細に検討した。その結果、(1)dppe、dppp、dppbとキレ-ト環が大きくなりキレ-ト環のコンホメ-ション変化が容易となるに従い、Ru-HとRu-(H_2)の交換がより促進される。(2)dppb、diop、binapとキレ-ト環員数が同じ(7員環)であっても、コンホメ-ション変化が制限されるに従って交換速度は減少する。(3)dppf錯体は分子状水素配位でなく、H_2が開裂したトリヒドリド型であること、などが明らかとなった。 2.触媒量の上記分子状水素錯体存在下に、各種アルケンの水素化について調べた(水素圧1〜5気圧)。その結果、1ーオクテンやシクロオクテンなど水素化の容易な基質の水素化においては、各種2座ホスフィンの影響は顕著ではなかったが、trans-2-オクテンやメチレンシクロヘキサンなどの水素化においては、dppfとbinapの錯体が比較的高い水素化活性を示したのに対し、dppp、dppb、diopなどの錯体は二重結合の移動には高活性を示すもののほとんど水素化能をもたず、配位し2座ホスフィンによる水素化活性の差が明確に認められた。これらの事実は、ルテニウム錯体の配位子としては、dppfやbinapのようにP原子の置換基がすべて芳香族であるジホスフィンが適当であることを示す。
|