研究概要 |
硝酸同化系を律速している硝酸還元酵素(NR)の遺伝機構を明らかにすることは作物の窒素同化効率の改良にとってきわめて重要である.本実験ではイネNR欠失突然変異体M819とその野生型とのF_1及びF_2におけるNR活性を調査し,NR欠失突然変異体の遺伝的特性を明かにしようとした. イネNR欠失突然変異系統M819,野生型である農林8号及びそれらのF_1(M819×農林8号)幼植物(播種後3週間)のNADHーNR活性,NADPHーNR活性及びNiR活性をin vivo法によって測定した.さらにF_2及びその両親幼植物(播種後3週間)のNR活性をin vitro法で測定した.in vitro法ではNR活性をNADHーNR活性とNADPHーNR活性とに区別して測定しうるが,操作が煩雑であるため多数の個体を同時に測定するのは困難である.それに対し,in vivo法では多数の個体を同時に測源しうるが,NADHーNR及びNADPHーNRの両活性が複合したものを評価している. F_1及びその両親幼植物におけるNADHーNR及びNADPHーNR活性を調べた結果,M819及びF_1はそれぞれ農林8号の5%及び63%であり,F_1は両親の中間であった.NADPHーNR活性はいずれの系統においてもNADHーNR活性に比べきわめて低かった.次にF_2及びその両親幼植物におけるNR活性を調べた.F_2300個体のNR活性は高活性型と低活性型に分割でき,前者は221個体,後者は79個体であり,高活性型と低活性型との分離比は3:1に充分適合していた.これらの結果は,M819におけるNR欠失突然変異がタバコやシロイヌナズナと同様に単因子劣性遺伝子に支配されていることを示唆している.
|