研究概要 |
1.高再生遺伝子型の選択 ‘Lodi'בKanota'の自殖後代で、F2からF3への植物体再生に関する遺伝率(0.93)の高さから、高再生系統の選抜が可能であることが判明した。しかし一方では、カルスの長期培養中に生じるソマクロ-ン変異があり、育種への応用面では好ましくなかった。特に、この培養系では再生植物の染色体数の減少傾向が認められ、低次異数体の育成には好都合であるが、高繁殖系や優良品種の育成には不都合であった。そこで、R1、R2(再生世代)を選抜するのに一旦完熱種子を採種し、そこから植物体を裁培して、その自殖未熱胚からカルス誘導を行いソマクロ-ン変異を少なくしようとした。これらの世代をRS1、RS2(種子経由再生世代)と呼ぶ。RS1世代ではR2世代よりも染色体数2n=42の正倍数体が多くなり、再生力の高い系統が選抜できた。圃場試験での外部形態形質の変異幅もRS1世代で小さくR2世代で大きく、その差は5%レベルで統計的に有意であった。 2.懸濁培養法の応用 これまでの研究では、高再生系統の選抜にはB5基本培地(2,4ーD2mg/l)の固型培地のみを用いてきた。しかし、懸濁培養では大量の細胞を得たり、宿主特異性毒素などを添加した培地を利用しやすい。そこで、これまでの固型培地で再生能の高い‘Lodi',‘Bulwark',および‘Iowa469'と中程度の‘Solva'および低い‘Rhiannon'の5品種を供試して懸濁培養での生長量や再生能を調べた。懸濁培養条件を検討すると、B5基本培地に0.2mg/lの2,4ーDを添加し、25℃暗黒条件下で10日毎に継代培養すると最も細胞の生長や植物体の再生が高かった。品種別にみると‘Lodi'と‘Rhiannon'の生長率や再生能は高かったが、‘Iowa469'と‘Solva'は殆ど生長しなかった。懸濁培養の接種源は、固型培地で6から7カ月の長期培養細胞を用いた。固型培地では長期培養カルス細胞は再生能を殆どなくしているが懸濁培養ではそれが回復できることが判った。 3.核DNA量の変異と植物体再生能 培養環境は非常に複雑で、再生個体にはおおきな遺伝的変異をともなう。そこで、核DNA量を遺伝的変異の指標にして、再生能との関係を調べた。固型培地でのカルスの核DNA量の分布は、例外もあるものの再生能の高い‘Lodi'と‘Iowa469'では正規分布に従い、‘Aurora'や‘Ffion'などの再生能の低い品種では、平均値や分散が共に小さく分布の尖度が高くなる傾向が認められた。
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