研究概要 |
高等植物の液胞膜に局在する2種の水素イオン輸送性酵素(プロトンポンプ)、すなわちATPase(酵素番号: 3.6.1.34)と無機ピロリン酸ピロホスファタ-ゼ(酵素番号:3.6.1.1)について、ヤエナリを材料にタンパク質分子レベルおよび酵素学的解析を進め、下記に示すいくつかの重要な知見を得た。 【プロトン輸送性ピロホスファタ-ゼ、H^+ーPPase】 H^+PPaseは分子サイズ73 kDaの単一のタンパク質で構成されている。精製酵素標品を用いた生化学的な解析により73Kタンパク質が二量体の形態をとり、これが具体的な機能単位であることが示された。酵素の高次構造の安定化にはMg^<2+>の存在が不可欠であり、Mg^<2+>は酵素安定化作用だけでなく酵素機能の活性化にも不可欠である。したがってH^+ーPPaseはMg^<2+>を必須要素とする金属酵素といえる。一方、Ca^<2+>はPPaseに対して強い阻害作用を示す。反応溶液中でCaPPi複合体を形成され、これが基質(MgPPi)結合部位に高い親和性をもつためである(Ki,17μM)。液胞膜H^+ーPPaseは他の可溶性PPaseあるいは動物ミトコンドリア、光合成細菌の膜結合型PPaseとは、酵素学的性質に共通点があるもののタンパク質としては異種分子であることも明らかにした。 【プロトン輸送性ATPase】 植物細胞には細胞膜、ミトコンドリア、葉緑体そして液胞の4種のH^+ATPaseが存在し、その中の液胞ATPaseを対象とした。ヤエナリの液胞膜ATPaseは9種(分子サイズ、68,57,44,38,37,32,16,13,12 kDa)の異種タンパク質分子の集合体であり、このうち16Kサブユニットはプロトンチャンネルを、他の8種のサブユニットは膜から露出した親水性部位を形成している。N末端側のアミノ酸配列から68Kは動植物、古細菌に共通な触媒サブユニットであることも明らかにした。
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