カイコをはじめとする鱗翅目昆虫の頭部抽出物中には筋収縮を誘起あるいは抑制したり、興奮性シナプス後電位(EPSP)に影響を及ぼす様々な神経ペプチドが存在する。これらの神経ペプチドはエネルギ-代謝やシナプス伝達、あるいは、飛翅等の昆虫の行動を総括的に制御する為、バイオテクノロジ-を用いた新しい害虫防除戦略における新たなタ-ゲットとして注目されている。 今回、チャイロコメノゴミムシダマシの筋ー神経系におけるEPSPを検定系とし、カイコおよびアワヨトウ幼虫の頭部抽出物を検索した結果、EPSPを増大あるいは抑制したり、静止膜電位の脱分極あるいは過分極を引き起こす複数の活性成分が両抽出物中に存在することを見い出した。これらの成分はいずれも低分子の神経ペプチドであると考えられたので、構造解析を目的としてこれらの単位を試みた。抽出材料は現在大量飼育を行っているアワヨトウの5令幼虫頭部とし、約5000頭分の頭部より0.2M酢酸抽出物を得た。この抽出物をSPーセファデックス、活性炭、セファデックスLHー20を用いたカラムクロマトグラフィ-およびイオン交換HPLCにより順次精製し、最終的にはODSカラムによる逆相HPLCにより単一な2成分を得た。これらの成分はいずれもEPSP抑制および静止膜電位の脱分極という2つの活性をあわせもち、生理作用の面から新規の神経ペプチドと考えられた。現在、アミノ酸組成分析および配列分析により神経ペプチドの一次構造解析を行うと共に、静止膜電位の過分極を引き起こす異なる成分の単離精製も試みている。
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