研究概要 |
細菌、真菌、高等植物は、細胞壁を有するという点において動物と異なり、微生物や植物の高い選択活性を有する化合物を見いだす上で、細胞壁は絶好のタ-ゲットの一つと考えられる。細菌細胞壁の主成分は、ペプチドグリカンであり、その生合成阻害剤としては、ペニシリン、セファロスポリンなど実用化されているものが多い。それに対し、真菌細胞壁の主要成分はキチン、マンナン、グルカンなどであるが、その特異的な生合成阻害物質の例は少ない。卵菌類に属する疫病菌Phytophthora属菌の細胞壁はβー1,6結合で高度に分枝したβー1,3ーグルカンを主成分としており、他の真菌類から特徴付けられる。本研究ではピ-マン疫病菌(P.capsici)の菌糸先端形態異常誘起活性物質を探索することにより、βーグルカンの特異的生合成阻害物質を見いだし得ると考えた。活性物質を糸状菌より検索の結果、Acremonium strictumの培養液中に活性が見いだされ、活性物質としてbisvertinoloneとcephalosporin P1の異性体を単離・同定した。さらにbisvertinoloneに関しては、種々の機器分析によりそれまで不明であった5個存在する全ての不斉中心の立体構造を絶対配置を含めて決定した。この2種の活性物質を酵母(S.cerevisiae)より調整したβー1,3ーグルカン生合成酵素系に作用させたところ、βーグルカン生合成を阻害することが明らかになった。しかしbisvertinoloneの活性は、in vivoの活性と比べると弱いため、他の作用点を持つ可能性が考えられた。Bisvertinoloneを含む培地で培養したP.capsiciの細胞壁を精製し、さらにそれを熱水抽出、冷アルカリ抽出、熱アルカリ抽出により分画したところ、bisvertinoloneで処理した菌の細胞壁は、熱水抽出物が、対照に比較して10培以上になり細胞壁の生合成が、阻害されたことは明かである。そこで種々の生物検定を行なったところ、抗菌活性、セルロ-ス生合成阻害活性は認められず、また抗酵母活性が認められたことから、βー1,6ーグルカンの生合成阻害活性を有する可能性が高いと考えられた。
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