研究概要 |
1.土壌細菌 Agrobacterium tumefaciensは,植物に感染し,クラウンゴールと呼ばれる腫瘍を形成する。この腫瘍は,本細菌のTiプラスミド中のTーDNAが植物の核遺伝子に組込まれ,TーDNA上の植物ホルモン合成遺伝子が発現し,植物細胞が異常増殖した結果生じるものである。しかしその形質転換機構は非常に複雑で未だ明らかにされていない部分が多い。 この機構の詳細を解明するには,形質転換の過程に特異的に作用する物質が有用なプローブとなると考えられる。そこで,本細菌に対する抗菌性や宿主植物に対する毒性をもつ物質を除外しながら,ポテトディスク上のクラウンゴール形成阻害活性を指標にして,形質転換阻害物質を検索した。 2.放線菌KBFPー2025株から単離同定したOxazolomycinの化学変換により調製した各種エステル体および放線菌TMー71株から単離した2種の活性物質Julichrome Q1・3,Julimycin BーIIは,本細菌に対しても,宿主植物に対しても毒性を示さなかったが,クラウンゴール形成を阻害した。 3.ポテトディスクに本細菌を接種して,12〜24時間後に上記の化合物を投与したところ,形質転換の阻害がほとんど観察されず,正常なクラウンゴールが生成した。このことからこれらの化合物は形質転換のいずれかの段階に作用するものであり,形質転換した細胞には阻害を示さないことが判った。また,ポテトディスクの形質転換は 12〜24時間以内に終了していると推測されるが,それを直接証明するため形質転換の指標であるオパインの微量定量法を考案した。ベンゾインを,オクトピン,ノパリンのグアニジノ基と反応させ,蛍光物質 アミノー4,5ージフェニルイミダゾール誘導体とし,HPLCで分離定量する方法を確立した。この微量定量法により形質転換の時間経過を追跡することが可能となった。
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