研究概要 |
セルロ-スの化学合成のキ-ポイントはグリコシル化の際の位置特異的(1,4ー結合)ならび立体置特異的(βー結合)規制を同時に満足することにある。前者は2,3,6ー位に保護基を導入したグルコ-ス誘導体を用いることにより解決されるが、後者はグリコシル化についての多くの既報の研究デ-タが参照され得るものの、極めて困難な問題である。そこで本研究ではまず、手始めにセロオリゴ糖の化学合成を試み、その結果、得られたβーグリコシル化についての知見に基づきセルロ-スの化学合成を計画した。現在、セルロ-スの化学合成には成功していないが、本研究により直線型および合流型合成法による八量体までの一連のセロオリゴ糖の合成に初めて成功し、βーグリコシル化について重要な多くの知見が得られたが、セルロ-スの化学合成に更に一歩近づき得たと考えている。得られた結果を以下に要約する。1)グリコシル化法としてイミデ-ト法は最も優れている。2)出発物質のグルコ-スの2,3,6‐位の保護基について、ベンジル基は脱離が多少困灘であるがアシル基よりグリコシル化収率の向上に効果的である。3)アシル誘導体を用いる場合、アグリコンの3‐位の水酸基に導入されたアルキル基は高選択的および高収率β‐グリコシド合成には必須であり、特にベンジル基は極めて効果的である。一方、4)グリコンの置換基について、4‐位の電子供与性置換基はβ‐グリコシル化に有利に作用するが電子求引性置換基の場合はグリコシル化の立体選択性と収率の低下を来す。以上の結果は、グリコシル化の際にはアグリコンおよびグリコンの置換基効果を十分に考慮する必要があること、すなわち目的とするグリコシド合成の正否は置換基の選択に大きく左右されることを示している。すなわち、1941年以来多くの研究者によって挑戦されたにも拘らず、未だ誰も成功していないセルロ-スの化学合成は出発物の置換基の選択により達成し得る可能性を示唆する重要な研究結果が得られたと考えている。
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