研究概要 |
本研究では,木材・木質材料の基本的構成単位である木材細胞壁の材質的劣化に関与する微小欠陥部として,外力によって壁中に発生するスリッププレ-ン(SP)と,微生物の菌体外酵素によって発生する微細腐朽を取りあげ,これらの形態的特徴と,これらが木材・木質材料の強度的性質に及ぼす影響について評価した。SPについては主に平成元年度に,微細腐朽については平成2年度に実験を行った結果,以下の結論を得た。(1)SPの発生していた木材(圧縮破損材)は健全材に比べて,強度的性質が著しく低下し,材質的に弱くしかも脆くなるのが特徴であった。SPは,圧縮破損程度が低い場合には,材全体に均一にしかも粗に分布していたが高負荷レベるで圧縮破損した場合は,材中に明瞭な破壊線(シワ)を生じ,この付近に集中的に発生していた。圧縮破損材中のSP傾斜角と破断部の壁破面傾斜角が一致したことにより,圧縮破損材は最終的にSPのところで破断することが判明した。さらに,本実験では,SPの発生数や発生頻度と材質劣化度との関連性を定量化することに成功し,SPが木材の材質を劣化させる重要な因子であることを明らかにすることができた。(2)木材細胞壁は,木材腐朽菌やカビ類によって材質が著しく劣化されたが,キトサン処理することによってこれらによる劣化を効果的に防除できることが分った。とくに,木材腐朽菌のCOVやSELに対して顕著な生育抑制効果があり,しかも処理試験片表面にはこれらの菌による腐朽跡や付着跡が全く認められなかった。これらのことから,キトサンは木材の材質を生物的に劣化する菌の菌体外酵素の分泌を効果的に抑制しているようであった。この点については,基礎的・応用的両面から,今後の研究課題としたい。
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