研究概要 |
親魚に外部から投与した牛アルブミンが血液を介して卵へ移行すること,卵中に免疫グロブリン(IgM)が存在することを明らかにしたのち以下の各研究を行なった。 1.コイおよびニジマスIgMの測定法を開発した。精製IgMでウサギに免疫して得た抗体(IgG)を精製しビオチン化した。これを用いて,アビジン・ビオチン法により免疫グロブリンのEIAを行なった。感度は極めて高く(ng/mlのオ-ダ-),血清だと100万倍程度の希釈で測定が可能であった。 2.コイIgMのEIAにより,キンギョの成熟と血中IgM量の関係を調べた。IgMは春季,水温が上昇すると共に増加し,産卵期(5月頃)には比較的高い値を示した。その後,冬季水温低下と共に低下し,明瞭な年周変化が認められた。一方,冬季産卵のニジマス親魚では,産卵期にむしろ低下することが明らかとなった。 3.コイ卵のIgMの存在を生化学的に確認した。未受精卵リン酸緩衝液中でホモゲナイズし,その上清を得た。EIAによるIgM測定を試みたが,用量反応曲線は標準IgMと平行にならず,性状の違いが示唆された。そこでHPLCゲル濾過(G4000HW,TOSHO)により分析した。各フランクションをSDSポリアクリルアミド電気泳動により分離,ニトロセルロ-ス膜へ転写後,ビオチン化抗コイIgMウサギIgGを用いて,免疫染色を施したところ,卵中IgMは血漿中IgMに比べいくらか保持時間が長い位置に認められた。さらにIgMのH鎖の電気泳動における易動度が大きいことが認められた。これらのことから卵中IgMは血中のものに比べH鎖の分子量が小さいことにより全体の分子量が小さいことが明らかとなった。このIgM分子の変化がどのように生じたのか,卵中,稚仔中でどのような役割をおっているのかについては今後の課題として残された。
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