研究概要 |
人間の知覚と認識の能力を基盤に、自然科学はまず形態や現象の詳細な観察と記述から始まったと考えられる。生物学における形態学は初歩的であると同時に、最も基礎的な領域であるべきはずである。形態学は初期の生物学(博物学的生物学)の歴史以来、近年に至るまでずっと生物学の上で最も重要な役割を担ってきた。 ところが、現代では、より分析的、還元主義的な生化学、生理学、遺伝学及び分子生物学などの諸領域の発展の陰にあって、形態学によって代表される総合的・全包括主義的な諸領域は忘れ去られようとしているかのようだ。この両者は長らく対立・論争の関係にあったり、両極分解のような状態にあったりしてきた。しかし、両者は密接な補完的関連を本来有しているはずであるから、あらゆる方法で両者の関係は充分に相互検証されるべきである。このことをKoestler(1978)は「“部分"はそれだけでは自律的存在とは言えない断片的で不完全なものを暗示する。一方、“全体"はそれ自体でそれ以上説明を要さないものと考えられる。しかし、深く根をおろしたこうした思想習慣に反し、絶対的意味での“部分"や“全体"は生物の領域にも、社会組織にも、あるいは宇宙全体にも、全く存在しない」と述べている。(田中・吉岡談:ホロン革命、工作舎) そのような視座にたってサバ型魚類Scombriform Fishes,(クロタチカマス科Gempylidae,タチウオ科Trich iuridae,サバ科Scombridae)の適応進化の過程に、体形、体色、側線系、鼻孔と嗅覚器などの最も包括的と言える外部形態を手掛かりとして考察を加えた。その結果、サバ型魚類の3科の中に、中深海性のクロタチカマス科に発して、海の表層域に適応したサバ科と海底依存性となったタチウオ科の2方向への進化の流れを認めることができた。従って、この3科はサバ型魚類と言う系統的一自然群を構成していることが明らかになった。
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