研究概要 |
魚体に含まれる脂質の酸化速度は,皮で最も速く,普通肉で最も遅いといわれているが,その理由は充分には説明されていない。本研究では,先ず魚の異なる組織から抽出した全脂質(TL)の酸化安定性に及ぼす脂質成分の影響を調べた。マイワシから抽出したTLの誘導期(IP)の長さには,αートコフロ-ル(αーToc)含量,極性脂質(PL)含量および脂肪酸組成などが影響し,αーToc含量が高ければIPは長かった。αーTocを含むマイワシ中性脂質(NL)は,マイワシPLまたはホスファチジルエタノ-ルアミン(PE)の添加によりIPは延長するが,ホスファチジルコリン(PC)の添加はIPに影響しなかった。αーTocを添加したトリリノレイン(TriーLi)の場合には,ジパルミトイルホスファチジルエタノ-ルアミンの添加によりIPは延長するが,マイワシPEの添加はIPを短縮した。これらの結果から,NLの酸化防止に対するαーTocとリン脂質の相乗作用には主としてPEが関与し,相乗剤としての作用にはリン脂質の有機塩部が重要と思われるが,PEのアシル基の不飽和度も影響するものと推測された。この研究の過程でマイワシ脂質を100℃,15〜30min加熱処理すると,IPは延長することが判明した。このマイワシNLの加熱処理に伴うIPの延長は,NLとPLを混合してから加熱したときに起こり,NLとPLとをそれぞれ単独で加熱処理してから混合しても起こらなかった。このIPの延長にはPEが関与し,PCやαーTocは関与しなかった。恐らく,加熱処理中にNLとPEとの間で相互作用が起こり,その結果ある種の抗酸化性物質が生成するのか,または酸化安定性に影響するような何らかの変化がNLに起こるものと推定した。
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