食品の加工・貯蔵に、高圧を利用しようとする気運が高まっている。しかし、高圧処理が食品中に存在する脂質に及ぼす影響については不明な点が多い。本研究の2年目にあたる今年度も、前年度同様イワシモデル系を用いて実験を行い、以下のような興味ある結果を得た。 1.新鮮なイワシ肉より脂質を抽出した後、脱脂肉に抽出イワシ脂質を20%(w/w)混合してモデル系を調製した。これを500、1000、1800気圧で30及び60分間高圧処理した後、5℃暗所に貯蔵した。貯蔵中のイワシ脂質酸化は、高圧処理した系の方が速やかに進行し、またその程度は圧力が高く、処理時間が長いほど顕著であった。 2.イワシミンチ肉を1回及び3回水晒ししてから脱脂を行って、モデル系を調製した。これらモデル系を1800気圧、60分高圧処理して、同様の貯蔵実験を行った。水晒し回数を増やすことにより、貯蔵中におけるイワシ脂質の酸化速度は遅くなり、モデル系の鉄総含量あるいはヘム鉄含量と相関が認められた。なお、いずれのモデル系においても、高圧処理によって貯蔵中の脂質酸化は促進された。 3.水晒しを行っていないイワシモデル系の水分含量を、7、17、24、35%に調整した後、1800気圧、60分の高圧処理を行った。これら系の水分活性は、それぞれ0.65、0.86、0.92、0.97であった。貯蔵中の脂質酸化速度は、7%>35%>24%>17%であり、特に水分含量17%、24%の系では顕著な脂質酸化は認められなかった。ここで特筆に値することは、本研究で水分含量の高い17〜35%の系において、高圧処理はイワシ脂質酸化を逆に抑制したことである。 4.水分未調整モデル系(7%)では、高圧処理が脂質酸化をかなり促進させたことを踏え、これを防止するためにαートコフェロ-ル(0.2%)を添加したところ、28日間の貯蔵中脂質酸化はほぼ完全に抑えられた。
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