研究概要 |
本研究は島根県西部で発生した昭和58,60,63年の集中豪雨災害を契機として,丘陵山林地帯で着手されている農用地開発事業に対して提起された水文学的検討課題を解決すべく着手したものである。なお,島根県西部の益田農地造成域における防災ダム等の排水計画には浜田測候所の年最大雨量に基づく確率水文量が考慮されていることに鑑み,豪雨の頻度解析,さらに流出モデルの適用性の検討過程で生じた問題点を明示するため,浜田ダム,斐伊川および下狩川流域における豪雨時の出水資料に基づく流出解析も行った。得られた成果は以下のようである。1.新たに提案している雨水流モデルと長短期流出両用モデルを併合した流出モデル(KiWS モデル)による流出解析を益田農地造成域で行い,最適モデル定数を得た。2.集中定数型KiWSモデルおよび長短期流出両用モデルによる流出解析では,ピ-ク流量がやや過少評価され,またその発生時刻も観測値よりも早くなる傾向が認められた。3.洪水到達時間の概念を応用した遅延効果を流出解析への入力降雨時系列に導入する手法を提案した。そして,この手法を集中定数型KiWSモデルおよび長短期流出両用モデルに適用することにより,前述2.のピ-ク流量およびその発生時刻に関する問題点が解消できることを実証した。4.昭和63年7月豪雨時に浜田測候所で記録された最大10分雨量,最大1時間雨量,最大日雨量についての生起確率を推定した。5.流域モデルの集中化の表面流モデルのモデル定数との関係を明らかにした。6.流出モデルの再検討と開発に時間を要し,調査対象とした益田農地造成域での実態調査結果を十分生かしたとりまとめに至らなかったが,本研究の遂行により,農地造成域における出水形態の経年変化を流出モデル定数を介して,定量的に分析しうる見通しが得られた。
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