研究概要 |
近年広汎な細胞で,膜張力によって活性化されるStretchーActivated(SA)Channelが見出されている。その生理的意義は確立されていないが,細胞容積や細胞分裂の調節に関わる極めて重要なチャネルであることが示唆されている。このチャネルの活性化機構を知るには膜張力を測定しなければならないが,未だその成功例はない。ラプラスの法則によれば,膜張力は圧力と膜の曲率によって与えられる。本研究の目的は,我々が最近開発したマルチ計測顕微鏡を駆使して,電極内圧,パッチ膜曲率,単一SAチャネル電流,パッチ膜容量を同時測定し,定量的刺激一応答関係を求め,SAチォネル活性化のメカニズムを探ることにある。計画は順調に推移し、以下に述べるような知見が得られた。 1,倒立顕微鏡を改造し,ビデオマイクロスコピィを用いることにより最高15nm/画素の倍率でパッチ膜の鮮明な像を得ることができた。 2,電極内に陰圧をかけるとパッチ膜は圧力に応じて変形し,その曲率は圧依存的に減小した。 3,パッチ膜の張力と面積の関係はほぼフックの法則に従うことが証明され,典型的なパッチ膜の弾性係数は約50dyn/cm^2と求められた。 4,SAチャネルの活動度(開確率)は圧力ではなく膜張力に依存することが証明された。 5,パッチ膜容量と画像の同時測定により,膜伸展中に脂質2層膜の厚さは変化しないことが分かった。このことからSAチャネルへの張力は脂質層ではなく,チャネル蛋白間をつなぐ細胞骨格系を介して伝えられることが強く示唆された。
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