新生ラット摘出脳幹脊髓標本法を用い、呼吸リズム形式に最も基本的なニュ-ロン群の諸性質について、電気生理学的測定法を用いて検討した。また、呼吸リズム形式の発生学的な起源にアプロ-チする方法として、ラット妊娠後期胎仔をin vitroで生存させる方法の開発を行った。ガラス微小電極法を用いて呼吸リズム形成エリアを検索しカルシウムイオン濃度を種々変化させた条件で、電気刺激によるリズムのリセットを検討することにより、延髓腹外側部に呼吸リズムの形成に重要に関与しているとみられる領域を、確認した。また、従来からシナプス伝達を遮断する条件として用いられてきたカルシウム0.2mMマグネシウム5mMという条件ではシナプスの遮断が不完全であることが明らかになった。またこの場合にも、左右両側の呼吸リズムの解離が見られた。このことは、両側のリズムが、不完全なシナプス伝達の遮断で容易に解離しうることを意味し、逆に両側リズムの解離が完全なシナプス遮断の証拠となりえないことを意味するので、従来えられている知見についての解釈をより一層慎重にする必要があることを示唆している。また、中枢神経系の主要な興奮性伝達物質であるグルタミン酸に対する拮抗薬である、CNQX、キヌレイン酸、APVの呼吸リズム形成に対する作用を調べたところ、予想に反してこれらの拮抗薬は、むしろ呼吸頻度の顕著な低下を引き起こすという結果が得られた。このことから呼吸リズム形成の機序についての有力な説であるペ-スメ-カ-仮説、すなわち呼吸の基本的なリズムがそれ自体単独でリズムを形成し得る性質を持つニュ-ロンによって形成されているという単純な仮説で説明するのは難しいと考えられ、むしろ、興奮性伝達物質としてのグルタミン酸がアクティブな形でリズム形成に関与している可能性について検討することが必要であることが明らかになった。
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