研究概要 |
扁桃核および海馬の記憶機能を調べる研究はこれまで、ヒトの症例やサルの脳の破壊実験を中心に行なわれてきた。それらの研究では、扁桃核および海馬の両方が重要であるとする考え方と,海馬だけで記憶障害が引き起こされるとする考えとがあった。しかし、ニュ-ロン活動の記録が行なわれなかったために結論が得られていなかった。今回の研究では、数秒までの短時間の視覚性記憶に特異的なニュ-ロン活動を扁桃核と海馬で探した。その結果、扁桃核では限られた写真にのみ短期記憶の時期に対応して持続的な活動の増加を示すニュ-ロンが約4%記録された。このタイプのニュ-ロンは、特定の写真の後でのみ活動を示し、しかも短期記憶の時期に一定の活動レベルを保持しているので、短期記憶の内容をコ-ドしているニュ-ロンと考えられる。扁桃核にはこのタイプのニュ-ロンのほかに、写真の種類にかかわらずすべての記憶時期に持続的活動を示すニュ-ロンが約14%記録された。このタイプのニュ-ロンは、写真を区別できないので記憶内容はコ-ドできないが、注意の維持など記憶の保持に必要な機能を担っている可能性が示唆された。一方、海馬では後者のタイプのニュ-ロン活動は記録されたが、前者のタイプのニュ-ロン活動(限られた写真の短期記憶に特異的に対応するニュ-ロン活動)は記録されなかった。以上のデ-タは海馬の短期記憶への関与を否定するものではないが、少くとも短期記憶の保持そのものにはかかわっていないことを示すものと考えられる。扁桃核は海馬とは異なり短期記憶の保持そのものに多少関与していそうである。しかし扁桃核においても短期記憶の保持に関与すると考えられるニュ-ロン活動は側頭連合野の皮質(上側頭溝で11%,側頭極で23%)に比べて少ないので、その役割は副次的であるかもしれない。今後は、扁桃核と海馬の役割を長期記憶とニュ-ロン活動との関連で検討する必要があろう。
|