研究概要 |
目的:四肢末端に存在する動静脈吻合(AVA)への血流動態は,四肢全体からの熱放散量を調節する。本研究では,手指のAVA血管拡張が体温および血圧調節に如何に寄与するか検討することを目的とした。方法:被験者はショ-ツのみの半裸体(裸体時)、または半袖ジャケット、長ズボンを着用(着衣時)した健康な成人男性7名。室温20℃、相対湿度40%の人工気象室で、30分間半仰臥位で安静の後、25分間の下肢運動と20分間の安静をとった。加圧実験では、運動開始15分より実験終了までの30分間、33.3kPaの圧力で両手首をカフ加圧し、手指への血流を遮断した。対照は加圧なしで同一手順とした。この間,食道温(Tes)、全身7点の皮膚温(Tsk)、胸部の皮膚血流量(LDF)と局所発汗量(Msw)、平均血圧(MAP)および心拍数(HR)を測定した。結果と考察:運動により皮膚温上昇は、カフ加圧により血流が遮断された手指ばかりではなく、腕でも完全に抑制された。裸体、着衣時ともに胸部のLDFは加圧時では対照より有意に増加し、皮膚血管の拡張が生じ,裸体時では加圧により前額、胸、大腿、足のTskが有意に高かったが,着衣時にはこれらのTskに差は認められなかった。その原因はMswが,裸体時には加圧による有意差は認められなかったが,着衣時には有意な増加を示したことに依った。裸体,着衣時ともにTesは,対照より加圧時の方が有意に高値を維持し、MAPは運動中,カフ加圧により有意に低下したが,HRは変化しなかった。MAPの低下はカフ加圧に対して、他部位の皮膚血管が代償性に拡張したため,総末梢抵抗の減少により生じたものと推察された。以上の結果より,裸体、着衣にかかわらず,四肢末端に存在するAVA血管の拡張は,四肢近接部位の表在性静脈還流を介して熱放散量を増加することができ,血圧の低下を生ずることなく、最も効率よく体温調節を行なうために、重要な機能を果しているとの結論を得た。
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