今年度は昨年度に購入したキセノンフラッシュランプを用いてcaged化合物の光分解の試験と、cagedイノシト-ル三燐酸(caged IP_3)によるモルモット門脈平滑筋スキンドファイバ-からのCa放出を測定した。内径400μmのガラス毛細管をキュベットとして用い、蛍光Ca指示薬fluoー3によってCa濃度を測定した。蛍光強度を測定する方向と直交する方向からキセノンフラッシュランプによる強力な紫外光を照射して、キュベット内のcaged化合物の光分解を行った。Caged Ca(DMーnitrophen)を用いた結果では、100Jのフラッシュで約50%の光分解効率が得られた。キュベット内に平滑筋スキンドファイバ-を固定し、1ないし30μMのcaged IP_3に浸とうした後にフラッシュを行うとt_<1/2>が1秒前後の時間経過でCa増加が起こる。このCa濃度増加は、前もってCa取り込み処理を行わないと見えないので、平滑筋CaストアからのCa放出によるものであることがわかる。またこのCa放出には、S字状の時間経過が見られる。すなわち光分解直後はCa放出速度が遅いが、数百ミリ秒経ちCa濃度が増加してくるとCa放出速度が増大してくる。しかし、初めから溶液に適当量のCaを加えて、フラッシュ前の遊離Ca濃度を300nM程度に増加させておくと、S字状の時間経過は観察されず概ね指数関数的なCa放出が観測される。更にCaを加えてフラッシュ前のCa濃度を500nM以上にしておくとCa放出速度はかえって減少する。この様な結果からIP_3によるCa放出はCa濃度に依存し、300nM付近に至適Ca濃度が存在することが分かる。低Ca濃度でフラッシュを行うと、放出されたCaによって更にCa放出が促進されるためS字状の時間経過が得られるものと考えられる。この様にIP_3によるCa放出にはCaを介する正帰還経路が存在し、見かけ上非常に急峻なIP_3の用量反応関係が得られる。このことはIP_3によるCa放出が細胞内の限局した部分で起こり得ることを示している。
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