研究概要 |
ラットの脳組織から調整したEDTA処理膜顆粒は、直径200〜500nmの閉鎖単層膜顆粒から成り、高いCl^--ATPaseおよびNa,K-ATPase活性を示した。この膜顆粒は、1mMウアバイン存在下で、浸透圧反応性のATP依存性Cl^-蓄積活性を示した。諸種ヌクレオチドのうち、ATP(Km=1.5mM)が最大Cl^-蓄積活性を示し、GTP、ITPおよびUTPが若干のCl^-蓄積活性を示したが、CTP、β、α-メチレンATP,ADPおよびAMPは、この活性を示さなかった。膜顆粒のATP依存性Cl^-取り込みは、Cl^-濃度依存性(Km=7.4mM)、pH依存性(至適pH7.4)および温度依存性(至適温度37-42℃)であった。エタクリン酸は用量依存性にCl^-取り込みを阻害し、Kiは57μMであった。N-エチルマレイミド(0.1mM)は、このCl^-取り込みを完全に阻害し、バナジン酸(1mM)も部分的阻害を示した。膜顆粒は、Cl^-取り込みに伴ってH^+を蓄積することなく、またCl^-取り込みはH^+輸送阻害剤であるDCCD(1mM)により全く影響されなかった。 これらの結果は、すでに報告した脳Cl^-ATPaseの諸性質とよく一致するものであり、脳の神経細胞膜に存在するCl^-ーATPaseが能動的にCl^-を輸送し神経細胞内外の大きなCl^-濃度勾配を形成する、との考えを強く支持するものである。 今後、このATP依存性の能動的Cl^-輸送(Cl^-ポンプ)が神経興奮によりどのように調節されているかを、培養神経細胞およびCl^-感受性蛍光色素を用いて、明らかにする予定である。
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