我々はFRTL-5甲状腺細胞において本来、百日咳毒素(IAP)非感受性なATP(P_2)受容体を介したイノシト-ルリン脂質代謝-Ca^<2+>系(C系)が、C系には直接連関せずにGiを介してアデニル酸シクラ-ゼ(A系)の抑制系に連関しているアデノシン(P_1)受容体の刺激で増強されることを見出した。このアデノシンの作用はIAPで完全に消失することからGiまたはGi様の蛋白質がA系抑制のトランスデュ-サ-としてのみならず、P_2受容体-C系を“間接的"に活性化することを示唆している。この新しいC系の制御機構がP_2受容体にとどまらず他のCa^<2+>動員性ホルモン受容体-C系にもあてはまるユニバ-サルな機構であるかどうかを調べた。その結果、(1)FRTL-5細胞にノルエピネフリンを作用させるとイノシト-ルリン酸の蓄積、細胞内Ca^<2+>濃度の上昇、アラキドン酸放出などの一連の応答が観察され、この応答に対しIAPはまったく無効であった。(2)一方、アデノシンおよびその誘導体はこれらC系の応答をまったくひきおこさないが、ノルエピネフリンの応答を著しく高めた。このアデノシン作用はIAPで完全に消失した。(3)ノルエピネフリン応答はα_1アドレナリンアンタゴニストで遮断されα_1受容体を介していること、一方、アデノシン応答はP_1アンタゴニストで遮断されP_1受容体を介していることが明らかにされた。このようにIAP基質G蛋白質がP_2受容体のみならずα_1受容体系に対しても“許容"効果を発揮することが明らかにされた。この現象の分子機構を解析するために細胞膜標品を用い検討しているが今のところこの現象を細胞膜標品で再現するには至っていない。いずれにしてもこの現象は過去に明らかにされていた各種キナ-ゼを介した情報伝達系間のクロスト-ク機構とは全く異なる新しいタイプのクロスト-ク機構と考えられる。
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