研究概要 |
回虫幼虫と成虫の複合体II(ComplexII;Fp,Ip,Cyb_L,Cyb_Sの4つのサブユニットから構成)の一次構造レベルでの相同性を明らかにするために、まず成虫FpサブユニットのN末端とそのトリプシン分解産物のアミノ酸配列を決定し、すでに明らかにされている牛心筋ComplexIIFpの部分一次構造と大腸菌のコハク酸脱水素酵素(SDH)およびフマル酸還元酵素(FRD)のFpの一次構造と比較した。その結果、これらの3つのFpのフラビン結合部位周辺および大腸菌酵素にみられるFADのAMP部分と結合する領域にそれぞれ高い相同性を示す一次構造が明らかになった(FEBS Lett.263 325ー328,1990)。第2期幼虫のミトコンドリア(Mt)呼吸鎖を解析した結果、本Mtは成虫と異なり、高いシトクロム酸化酵素活性を有し、SDH/FRDの比が高いこと、ユビキノンが主要キノンであること等、本幼虫の呼吸鎖はきわめて好気的であることが定量的に明らかになった。また、培養して得た3期、4期の幼虫Mtには好気および嫌気の両呼吸系が併存していることが示唆された。さらに、幼虫期のMtのシトクロム成分を成虫と比較する目的で、成虫Mtのシトクロム成分の酸化還元電位を測定したところ、ComplexIIのシトクロムb558は哺乳類のそれと比べて非常に高い値が得られ、成虫ComplexIIの特異な機能(フマル酸還元活性)を説明しうることが明らかになった(Bioーchem.Int.21 1073ー1080,1990)。成虫ComplexIIに対する抗体を用いた免疫ブロッティングの結果から幼虫ComplexIIは成虫と異なることが示唆された。 これらの成果は回虫成虫の嫌気的フマル酸呼吸の主要成分であるComplexIIについて、その分子レベルでの実体を明らかにした点で画期的であり、とりわけ2期幼虫に関する知見はエネルギ-代謝にみられる寄生適応現象を解明するうえで重要な一歩となるものと考えられる。
|