社会の高齢化と医療の高度化により、多くの人が何らかの病気を持ったり、投薬を受けているため、複合的な要因により思いがけない副作用を生じることがある。とくに肝機能の低下は重要な状態を起こし易い。このような医薬品のリスク評価としては、従来の健全な動物を用いて単独毒性を検討するような方法は不適格である。我々は部分肝切除後の肝再生を研究するうち、肝再生は多くの汎用医薬品の影響を受けることを見出した。肝臓は大きな再生能力を持っているが、その再生能力自体が阻害されれば当然機能不全に陥る。以上の観点より、多くの汎用医薬品が肝再生に与える影響を評価し、肝障害を起こす可能性のあるものを明らかにすると共に肝再生の機構を解明したい。肝再生は、これまでの我々の研究によって明らかにされている方法、即ち、DNA合成の律速酵素であるチミジル酸合成酵素(TS)とチミジンキナ-ゼ(TK)の活性とTSの酵素量(免疫ブロティング法による)を指標とした。 1.糖質コルチコイド(ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン)を部分肝切除後8時間でラットに投与すると、24時間後の肝再生は大きく阻害された。インドメタシンも同様の効果を示した。このことは、肝臓の再生にプロスタグランジンが関与することを示すと共に、これら汎用医薬品を肝臓病患者に投与するときには、注意が必要であることが判った。 2.コルヒチン、ビンクリスチンもラット肝再生を強く阻害。これは、微小菅のDNA合成系酵素の誘導への関与を示す最初の実験である。 3.肝臓病には性によって病態が異なることがある。ラット肝再生に性差があるかどうか検討した結果、雄では、αー受容体のみが、雌ではα、βー両受容体が肝再生を調節していることが判明した。 4.四塩化炭素投与後の肝再生も雄では、部分肝切除後の肝再生と同様αー受容体が調節することを証明した。
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