研究概要 |
雑種成犬にdiethylnifrosamine(2μl/kg)を連日投与し,肝硬変を作成することに成功した。種々の程度の食道静脈瘤の発達もみられた。食道静脈瘤を有す肝硬変犬を用いた肝血行動態の検討では正常犬に比し,肝硬変犬で,脾及び腸管への血流量が増加し,結果として門脈流入血流量の増加がおこることが明らかとなった。門脈本幹血流量は肝硬変犬を正常犬では差がないことより,門脈流入血流量の一部が側副血行路に流出していると考えられ,食道静脈瘤の発達に門脈流入血流量の増加が一因となっていることが明らかとなった。臨床例においても同様の結果が得られた。門脈圧亢進症の代表的疫患である肝硬変症,特発性門脈圧亢進症例で,脾動・静脈血流量,上腸間膜動・静脈血流量,内脈本幹血流量を測定し,正常人のそれと比較した所,脾動・静脈血流量,上腸間膜動・静脈血流量は著明に増加していた。しかるに肝硬変症の内脈本幹血流量は正常人のそれと差るし,特発性門脈左亢進症の門脈本幹血流量は正常人のそれを少しこえる程度であり,増加した門脈流入血流量の大半は門脈側副血行路へと流出していることが明らかとなった。門脈側副血行路の代表例が食道静脈瘤であり,食道静脈瘤の形成に脾及び腸管系への血流量の増加が密接に関与していることが明らかとなった。各種薬剤の脾,腸管系への血流量,門脈本幹血流量への影響を臨床例で検討した。カルシウム拮抗剤は門脈流入血流量,内脈本幹血流量を増加し,食道静脈瘤の治療には不適という結果が得られた。バソプレシンは脾・上腸間膜静脈血流量及び左胃静脈血流量を著明に減少せしめた。しかしながら経静脈投与を必要とする欠点があり,今後この点を解決するなら治療薬になりうる可能性が示唆された。他の薬剤についても検討する必要があり,今後の課題とした。
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