研究概要 |
今回の研究ではヒト胃癌培養細胞のKATOIII,MKN45を用いて、プロスタグランディン(PG)の胃癌増殖に及ぼす効果を検討したが、その結果以下のことが明らかとなった。 1.各種PG(PGE_2,E_1,17S,20ーdimethy1ー6ーoxoPGE_1,F_2α)は、粘液細胞の性格をもつ低分化型腺癌、KATO III細胞の増殖を著明に抑制したが壁細胞に分化したMKN45には影響を及ぼさなかった。 2.またこの際PGはKATOIII細胞のcyclic AMP合成を促進すると同時に、膜のAdenylate cyclase(AC)活性、GTPpase活性をともに上昇させた。さらにこのPGによるAC活性化はGTP依存性であった。 3.これらPGによるKATOIII細胞に対する効果はすべてPGE_2>E_1>E_1アナログ>F_2αの順に強かった。 4.一方、PGはKATOIII、MKN45細胞のイノシト-ルリン脂質の代謝回転、及び細胞内Ca++濃度にはまったく影響しなかった。 5.Forskolinやdibutyryl cyclic AMPの直接投与もKATOIII細胞の増殖を著名に抑制したが、細胞内cyclic AMP濃度に影響しないcarbacholやgastrinの投与では増殖抑制効果はなかった。 6.KATOIII、MKN45細胞の培養において、細胞内及びメディウム中でのPG濃度はすべて測定感度以下であった。 以上より、各種PGはKATOIII細胞の膜の促進性GTP結合蛋白(Gs)に連関したPGE_2受容体に結合してcyclic AMP合成を促進させ、その結果細胞増殖を抑制すると考えられた。正常胃粘膜においても粘液細胞のPGE_2受容体はGsと、壁細胞のそれは、Giと連関していると考えられるので、今回の成績は細胞内の機能によって胃癌の分化の程度や起源を類推できる可能性を示している。また胃粘膜は通常PGE_2を産生しているが、これら癌細胞でPG産生がみられなかった事実は、癌の発育にとって好都合な条件を提供しているものと思われた。
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