研究概要 |
膵炎患者膵液中にプロスタグランディン(PG)の高値を認めたので,PGと膵炎の病態との関連,PGの膵炎治寮ての応用に関する研究を始めた。 1.基礎的研究:先ず基礎実験によりラットのセルレイン膵等モデルが最適と判断した。ついで最適の用法,用量,屠殺時期を検討した。そのうえで,膵炎に対する16,16ーdimethyl PGE_2(dmPGE_2)およびPG合成阻害剤インドメサシン(IND)の効果と作用機序を研究した。dmPGE_2は用量依存性および投与時期依存性に膵炎の改善作用を示した。膵炎誘発の前・後に投与した場合には著明な改善を示したが,前または後投与のみの現場には改善は軽度であった。作用機序として細胞膜と細胞内器官膜の安定化が示唆された。しかしdmPGE_2は膵内の内因性PGI_2,PGI_2/TXB_2比の低下を誘発し,活性膵酵素の膵内注入膵炎モデルにおけるdmPGE_2の膵炎増悪作用の機序として注目された。INDは膵等の増悪作用を示し,壊死所見の出現をきたした。INDは膵内の内因性PGE_2,PGE_2/TXB_2比の低下による膜の脆弱化およびPGI_2,PGI_2/TXB_2比の低下による血流低下を介して膵炎の増悪(壊死を含む)をきたすことが示唆された。 2.臨床的研究 膵液中PGの特徴的所見に増悪時のTXP_2とTXP_2/PGI_2比の上昇,軽快時の改善がある。TXB_2は膵炎増悪作用をもつことが示唆されたINDの坐薬は臨床的に鎮痛・消炎の目的で膵炎にしばしば用いられるが,臨床的用量では膵液中にPGE_2/TXB_2比やPGI_2/TXB_2比の著明な低下をきたすことはなく,病態の増悪をきたすこともなかった。 [結論]PGは膵炎の病態に深く関与する。そのうちPGE_2,PGI_2は膵炎の改善作用を,TXB_2は増悪作用を示す。しかし,現時点ではPGE_2蕨剤を臨床に応用するには問題がある。臨床的にインドメサシンを鎮痛消炎の目的で使用する場合には用量に注意を要する。PGE_2/TXB_2比,PGI_2/TXP_2比の低下を介した増悪をきたす可能性があるからである。
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