研究概要 |
研究目的:肝硬変患者にとって食道静脈瘤破裂および胃腸管出血は,予防を左右する大きな因子である。従来,食道離断術,脾摘,硬化療法などの外科的治療が主流で,薬物による内科的予防処置はあまり顧みられなかった。最近になり,β遮断剤,アンギオテンシン変換酵素阻害剤(CEI)などによる門脈圧の低下,そしてこれによる出血への予防が多く研究・報告され,内科的薬物療法を再認識する必要性があるとの声が高まっている。この意味で,門脈血管という特殊性を種々の受容体レベルから再認識する必要があり,また,プロスタグランディン(特にTXA_2とPGI_2のバランス),レニン,アンギオテンシン,アデノシン,カテコ-ルアミン系などの内因性調節物質の調節不全の検討が必要となってきている。 レニン・アンギオテンシン(RA)系におけるレニン分泌や交感神経未端のノルアドレナリン(NA)放出などにプロスタグランディン(PGs)が深く関わっていることは衆知であるが,このPGs系,とくにprostacyclineは,最近肝再生や門脈圧亢進時に上昇することが報告されている。こうした背景は肝硬変症の門脈圧亢進症において,RA系の賦活亢進肝門脈交感神経から放出されるNAの増加と決して相反する事実ではない。prostacycline産生の増加がもたらす幣害(間接的だが)は,門脈圧亢進のみならず食道静脈瘤の破裂,上部消化管出血,肝外シャントの増加に及ぶとも言える。この意味で,肝障害のどのstageで,あるいは門脈圧亢進のどの時期でprostacycline,angiotensin II,NAが増加するかを確かめることは,治療上大きな意味をもつと考えられる。我々の動物実験では,肝硬変(LC)rat(CCl_46週間),門脈圧亢進症(PH)rat(ligated for 2W)をSham手術ratと比較すると,LC ratでprostacycline安定代謝産物6ketoPGF_<1α>は動脈血で2007.5±525.8,門脈血4801.7±40.7pg/mlで,Sham ratの141.7±21.0と比べると約2倍,5倍となっており,門脈血管平滑筋内の6kPGF_<1α>はLC ratで254.7±34.0,PH ratで418.8±40.7pg/mg WWとなり,Sham ratの141.7±21.0と比較すると約2倍,3倍と増加が認められた。この結果からみても,初期のstageと肝外シャントなどが完成するlate stageではprostacyclineの増加が大きく変動していることがうかがわれる。一方我々は,臨床研究として肝疾患患者のRA系を抑制阻害する方法として,CEIであるEnalaprilを肝硬変患者に10mg/日8日間使用した。その結果,有意なNa利尿効果(10〜15%の増加)と腎機能の改善814.3%のCrCLの改善増加)を観察し,同時にその機序として尿中PGs(PGE_2,Thromboxane(TX)B_2,lldehydroTXB_2,6kPGF_<1α>)の増加を認めた。こうした一連の結果をHepatologyに,またTXA_2阻害剤のカテコ-ルアミンに及ぼす効果をClin.Pharmacol.Ther.に我々は最近報告した。
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