研究概要 |
今回の研究は,いくつかの新しい実験方法を用いて,B型慢性肝炎発病の機構を解明するために行われた。最初に試みた事は,ヒトリンパ球を用いてHBV特異的なキラ-T細胞(CTL)の活性を解析する実験系の確立であった。そのために,我々は,まず遺伝子導入法を用いて,HBV関連抗原を表面に持つ遺伝子導入細胞を作成した。次いで,これらを標的細胞として用い,HBV特異的キラ-活性を測定した結果,ヒトのB型慢性肝炎において2種類のHBV特異的CTL,即ちエンベロ-プ抗原とコア-抗原を認識するCTLが存在する事を明らかにした。我々が次にアプロ-チを試みた疑問は,何故,これらのCTLがある特定の感染宿主にのみ誘導されるのかという点である。PreS2領域でもとりわけ最初の39個の核酸は,きわめて多様性に富み,大きく3種類(adr型,adw型,ayw型)に分類できる。ついで,これらのHBV感染と重篤な肝細胞障害をもつ患者のHLA抗原系との関連を検討してみた。その結果,adr型,pre S2HBVが感染した患者群では高頻度にHLAーA24を持っているという事が明らかとなった。一方,adw型,pre S2HBVやayw型pre S2HBV感染患者ではHLAーA2抗原が全例に於て認められた。以上のヒトリンパ球を用いた実験結果にもとづいて,HBV特異的キラ-T細胞のIn vivoでの役割をより詳細に解析するという目的で,まず,マウスにおける実験系の確立を認みた。その結果,いくつかの実験においてHBV遺伝子導入細胞特異的CTLを誘導することが出来た。現在このHBV特異的CTLのより確実な誘導法と,その解析を行いつつ有るところである。この実験系の確立は,HBV特異的CTLを誘導し,その生物学的意義を解析できると同時に,このCTL誘導における遺伝学的影響を検討できることになり,B型慢性肝炎発症の機構を解明出来る可能性を秘めていると考えられる。
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