研究概要 |
1.目的:血管壁細胞の機能は動脈硬化の成因に大きく関係するが、従来、実験に用いられてきた血管壁細胞は大動脈、臍帯静脈などのものが殆どであり、実際の臨床で問題となる脳動物、冠動脈由来の細胞を用いた検討は殆どなされていなかった。本研究の目的はミニブタの脳動脈、冠動脈からの内皮細胞、中膜平滑筋細胞の培養系を確立すること、それらを用いて血管壁細胞機能の部位による特異性の有無を検討することを目的としている。 2.方法:(1)体重約20Kgのミニブタをペントバルビタ-ルにて麻酔し、胸部大動脈、冠動脈、脳底動脈を摘出した。それぞれの血管から内皮細胞(EC)をメスにて剥離しM199+20%牛胎児血清(FCS)にて初代培養を試みた。さらに、中膜を剥離し、Explant法にて平滑筋細胞(SMC)の初代培養を行なった。(2)(1)により培養系に移した細胞を用い、血小板成長因子(PDGF)、上皮成長因子(EGF)、インスリン様成長因子-I(IGF-I)、CaアゴニストであるBAY K 8644に対する増殖特性を、細胞数、[^3H]-thymidineの取り込みを指標にし、6,12,24,36,48時間で検討した。(3)PDGF,EGFに対する大動脈、冠動脈SMCの細胞内Ca濃度の変化をfura2を用いて測定した。 3.結果:(1)大動脈、冠動脈からのEC,SMCは初代培養、継代培養とも順調に発育した。脳動脈については、SMCの初代培養には成功したが、増殖性が著しく悪く、継代するに至らなかった。(2)それぞれの動脈から得た初代培養SMCを用い、PDGF(1U/ml)、EGF(10ng/ml)、IGF-I(100ng/ml)、BAY K 8644(10^<-8>--10^<-6>M)に対する増殖を検討したところ、いずれの成長因子に対しても、またいずれの時間においても、脳動脈で著しく反応が低かった。大動脈、冠動脈からのSMCには成長因子に対する反応性に差異を認めなかった。(3)PDGF、EGFに対する細胞内Ca濃度の反応性についても、大動脈、冠動脈で差を認めなかった。 4.結論:以上の結果より、脳動脈の平滑筋細胞の増殖性は大動脈、冠動脈に比べて著しく低く、血管の部位により、壁細胞の機能に大きな相違のあることがわかった。
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