心筋細胞の構成蛋白であるミオシンが抗原となる実験的自己免疫性心筋炎が発生するか否かを検討した。抗原はヒト心筋から村上らの方法で採取した主に重鎖から成る心筋ミオシンを、感作動物にはA・SWマウス、Lewisラット、Hartleyモルモット等を用いた。体重1Kg当たり5mgの心筋ミオシンを等量の完全フロイドアジュバントと混合し、8週齢の動物の皮下に反復注射した。その結果ミオシンをLewisラットに注射した場合のみ全例で心症状を伴い、肉眼的に明瞭な急性心筋炎が出現した。他の動物を感作した場合には、組織学的にも心筋炎を確認出来なかった。この実験的心筋炎では、心不全に至るラットも出現した。組織学的には心室壁全層に渡る炎症性細胞浸潤と心筋壊死巣が認められ、多核巨細胞も多数みられた。そこで、この心筋炎ラットから抗ミオシン抗体価のピ-ク時に血清を得て免疫グロブリン分画を精製し、同系ラットへの移入を試みたが、心筋炎を転嫁出来なかった。ところが、このラットの脾細胞をConAで培養した後に細胞を集めて正常ラットに移入したところ、巨細胞性心筋炎の発症がみられた。この事実からこの心筋炎モデルはTリンパ球依存性自己免疫性疾患であると考えられる。 自己免疫性実験的心筋炎の作成については1963年のKaplanとCraigの実験を始めとして長い歴史がある。その中で抗心自己抗体に対応する自己抗原を固定する為に数多くの心筋構成蛋白について免疫的実験が積み重ねられてきた。そして、今回初めてまずミオシンが組織学的に広範な心筋を惹起し、感作動物に心不全症状を招来し、尚且つそのTリンパ球によって受身トランスファ-を転嫁出来ることが明らかになった。心筋構成蛋白は自己免疫性疾患の抗原と成り得、殊に心筋ミオシンは有力な自己抗原であることが実験的に裏付けられた。 これらの成果は第54回日本循環器学会学術集会においてシンポジウム「心筋細胞障害の成因」で、また、第8回International Society for Heart Kesearch(ISHR)日本部会、シンポジウム「本邦における新しい心疾患動物モデル」で発表される。
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